こんにちは、おかもとたかしです。
今回は、アップル創業者のスティーブ・ジョブスが2005年にアメリカのスタンフォード大学の卒業式で行った有名な講演について取り上げたいと思います。
これはジョブスが自らの半生を語りながら、そこから得た人生観や経営哲学に言及したもので、多くのビジネス本や自己啓発書にも紹介されている、伝説的なスピーチです。
すでに多くの方が独自の視点で解説をなさっていますが、今回は、ジョブスが自分で作った会社を追放されたエピソードについて語ったことを中心に述べてみたいと思います。
今日と明日の2回に分けて、お伝えします。
「愛と喪失について」
このスピーチは「3つのストーリー」によって構成されているのですが、今回ご紹介するのは、2番目の「愛と喪失について」と題されたストーリーの一説です。
アップル創業からの変遷を語るにあたり、冒頭にジョブスはこう切り出します。
私は人生の早い時期に自分のやりたいことを見つけて幸運だった。
この言葉が言える人は本当にラッキーな人たちです。若くして成功を収めた人には、自分のやりたいことが見つかったのは全くの偶然で、きっかけは「突拍子もなく」「ひょんなことで」訪れたと、予期せぬことだったと強調する人が多いです。ジョブスと同様、口をそろえて「幸運だった」と振り返ります。
若いころに一生を貫く仕事に出会うことは、実は確率的には高くありません。年老いても、自分のやりたいことにありつけない人も少なくありませんし、やりたいことに蓋をして年を重ねてしまう人も多いですから。
1976年、私とスティーブ・ウォズニアックはアップルを創業し、10年で20億ドル以上の資産と4000人以上の従業員を抱えるまでに成長した。
自尊心の高いジョブスにとって、最初の誇らしい実績と言えるでしょう。それにしても、今でこそ10年でこれほどの大企業に成長することは近年のGAFAなどのIT企業を見れば決して珍しい事ではなくなりましたが、ITという言葉さえなかった70~80年代にそれを成し遂げたことは、驚異的と言ってもいいと思います。
我々の最高の製品「マッキントッシュ」を発表した翌年、30歳になったとき、私は解雇された。どうして自分が作ったから会社をクビになるんだよ?
これがジョブスの「喪失」、すなわち創業者の解雇という挫折です。
私が雇った才能ある幹部と意見が対立し、取締役会が彼を支持したため私はクビになった。それまで一心不乱に取り組んできたことが一瞬で吹っ飛んでしまったのさ。
ジョブスは独創的なアイディアと強力なリーダーシップでアップルを成功企業に導きましたが、その陰では社内の軋轢を生み、自ら創立した会社を追われるという事態になったわけです。そしてここから、ジョブスの人生観に変化が見られます。
希望の光が射したとき
アップルを追われたジョブス、このあとどうなるのでしょうか?
それからの数か月間、私は何も手がつかなかった。先輩の起業家をがっかりさせてしまった。彼らから託されたバトンを落としてしまったのだから。
この発言にはジョブスの以外な一面が垣間見えます。経営者としては厳格だった彼が、自分より世代が上の先輩経営者にはリスペクトを表しているのです。さらにこう続きます。
先輩のデヴィッド・パッカードとボブ・ノイスに会い、こんなことになってしまい申し訳ないと謝罪を試みた。
デヴィッド・パッカードはヒューレット・パッカード社を設立し、真空管の開発に尽力した人物。ボブ・ノイスはあのインテル社の共同創立者で、「シリコンバレーの長」とも呼ばれた大物です。
もちろん、ジョブスにとってはお世話になった重鎮たちだとは思いますが、ワンマンなイメージがあるジョブスの、意外な繊細な部分が見受けられるエピソードです。
失敗者となった私は、シリコンバレーから去ることも考えた。しかし、いくらアップルであのような目に遭っても、私は自分がやってきたことが好きでたまらないことに気づいた。そして次第に希望の光が射しこんできたんだ。
職を追われ、すべてを失ったとき、ジョブスは原点を見つめ直したのではないでしょうか。
どんなに自分を否定されても、私は自分のなすべきことを愛していた。それが私に再出発を決意させてくれた。
ジョブスの本当の快進撃は、この瞬間から始まったのです。
まとめ
ジョブスは「世界を制した男」と呼ばれることもあり、没後8年を経た今も一流の経営者として高く評価されているわけですが、一方で実は独善的でわがまま、一人の人間としては付き合いづらい、仕事しずらい、という印象も持たれています。
今回紹介したエピソードはまさに、彼の裏の一面がわかるストーリーでした。どんな人物にも光と影があります。その両面があってこそ人間なのです。
影の部分がもとで挫折を経験したジョブスがふたたび立ち上がるまでのさまを今日は紹介しました。
挫折を乗り越えたジョブスからどんな言葉が飛び出すか?明日(次回)もどうぞお楽しみに!