「後楽園」と言えば、多くの人にとっては、懐かしい響きがあるかもしれません。
かつて東京に「後楽園球場」という野球場がありました。東京ドームがオープンするまで、読売巨人軍、日本ハムファイターズの本拠地球場でした。
なぜ後楽園という名がついていたかというと、後楽園球場のすぐ近くに、「小石川後楽園」という庭園があるからです。最寄駅は東京メトロの後楽園駅です。
また、岡山市にも、日本三大庭園のひとつ、「後楽園」がありますね。
1・東京都文京区にある池泉回遊式庭園。寛永6年(1629)水戸藩主徳川頼房が起工したが、焼失。その子、光圀(みつくに)が明朝の臣朱舜水(しゅしゅんすい)の意見を取り入れて寛文9年(1669)ころに完成。現在その一部が残り、付近にドーム球場・遊園地などがある。小石川後楽園。
2・岡山市にある池泉回遊式庭園。藩主池田綱政により、元禄13年(1700)ころに完成。金沢の兼六園、水戸の偕楽園(かいらくえん)とともに日本三名園の一。
出典:デジタル大辞泉
旧後楽園球場そばの小石川後楽園は、なんとあの「水戸黄門」こと徳川光圀が完成させた庭園だったわけです。
さて、この後楽園の「後楽」にはどんな意味があるかご存知ですか?これは中国古典が原典で、今現在にも十分通用する生き方の指針を与えてくれています。
政治家やリーダーに対して向けられた金言ではありますが、個人で勝負する起業家やフリーランスにも十分に通用する考え方でもあります。
この機会に、「後楽」の意味を知っていただければと思います。
後楽園の名前の由来(意味)とは
後楽園の後楽とは、中国・北宋の政治家で文学者の范仲淹(はんちゅうえん)が著した書物『岳陽楼記』に登場する一文「先憂後楽」が由来となっています。
「先憂後楽」の正確な原文は「先天下之憂而憂、後天下之楽而楽」です。日本語に充てるとこうなります。
天下の憂いに先んじて憂い、天下の楽しみに後れて楽しむ
現代語訳はこちらです。
人々が心配する前から、物事を憂い、
人々が楽しむのを見届けた後に、
自身が楽しむ。
という意味になります。
このようなことを実践する政治家がトップにいる国や地域でが政治が安定し、人々は平和に暮らすことができます。過去の歴史を振り返っても、「名君」と言われるような偉大な為政者(統治者)は、この言葉に倣った生き方を歩んでいます。
作者は金言も残している
この名言を後世に残した范仲淹自身は大変な努力家として知られています。南都の学寮で、五年もの間、夜も昼も勉学に励んでいますが、おかゆさえも十分に食べず日没ごろにようやく食事をとったこともしばしばで、夜になって気持ちがゆるんでくるとすぐに顔を水に沃(そそ)いだりなど、猛勉強のエピソードが残っています。
そんな范仲淹が知人の呂夷簡と交わした会話が記録に残っています。呂夷簡が「私は随分多くの人を見てきたが、節操ある者はないものだ」と述べたのに対して、范仲淹は、「あなたが知らないだけで、世間には立派な人物がいます。先入観をもって人に接していると、節操ある者がやって来ないのはむしろ当たり前です」と応じでいます。
立派な人がいないと嘆く人は、立派な人を見つけられない、ということを皮肉ったエピソードです。これは現代にもよく見受けられる話で、例えば「最近の若者は礼儀がなっていない」という先入観を持ち続けている人は、「礼儀正しい若者」に出会うことはできません。もちろん言うまでもなく、「礼儀正しい若者」は世の中にたくさんいますよね。
リーダーや政治家に道を教えてくれる「先憂後楽」
「天下の憂いに先んじて憂い、天下の楽しみに後れて楽しむ」という思想は、現代でも全く色あせません。
組織のトップに立つ人は、今はネットの登場により若干変わってきてますが、昔は誰よりも世の中の最新情報を把握できる立場にいました。
グッドニュースもバッドニュースも人々より早く知ることができたわけです。なので、バッドニュースが人々に知れ渡る前にいち早く対策を打てば、事態が好転した状態、もしくは事態の悪化を避けた状態で世間に広く知られることになります。
世の中の情勢を憂い、人々が知らないうちにまず自分が身を粉にして働く、それはまさに「民のための政治」を行ったことになりますね。これは経営トップにも同じことが言えます。
もちろん、人々をまず楽しませ人生を謳歌さぜて、自分が楽しむ番は最後という「後楽」の考え方も、大いに役立ちます。
本当に幸せに過ごしているときには、それが「誰のおかげ」かはなかなか気づきにくいもの。ましてや、トップの人の頑張りのおかげと思っている人はさらに少ないです。だからこそ「後楽」はトップにとっては最高のあり方で、「いい政治をしたのに人民にそれを感じさせない」のが、歴史に残る指導者です。
フローランスにも応用できる「先憂後楽」の考え方
組織のリーダのみならず、ひとりビジネスであるフリーランスもまた「先憂後楽」は胸に刻んでおきたい考え方です。
フリーランスにとって大切なものは、後にも先にも「信用」です。信用を勝ち取るには、「Giver(ギバー)」に徹しないといけません。
Giverとは、「先に与える人」のことです。世の中は持ちつ持たれつ、ギブアンドテイクで成り立っていますが、まず当たれる側に回れる人が、少しずつ信用を積み上げることができます。
「先憂後楽」、とくに「後楽」は身につけておけば役に立つ価値観です。自分よりまず相手に喜ばせることを心がけていけば、想像以上の恩恵を受け取ることもできます。「返報性」の法則はビジネスでも人間関係でも有効な法則なのです。
おわりに
中国で生まれ日本に伝えられた「先憂後楽」という言葉は、庭園の名前になり、地名にもなるほど、当時から重宝されていたことがわかります。それほど、どんな時代になっても通用するリーダーのあり方を示しているのでしょう。
そして「先憂後楽」は、Giverとして信用を得るために拠り所にしたい価値観でもあります。今から実践しても遅くはないですよ。